唯一無二のひと
由紀恵は、悲しげに俯いた。
「何を言われても仕方ないわ。
島田さんを忘れようとして、他の人と付き合ってみたこともあった。
でも、どうしても彼じゃなきゃダメだった…
私が普通の家庭を持てなかったばかりに、秋菜ちゃんには本当に可哀想な事をしちゃった…本当にごめんね…」
『可哀想』
竹内秋菜ちゃんは可哀想な子。
子供の頃、よく言われた。
鍵っ子。
母子家庭だからと意味のない同情。
父親の顔すら知らない事。
それが生まれついての秋菜の普通だったから、そんな同情みたいなこと言われても困った。
確かに可哀想な時期もあったかもしれない。
あったとしたら、それは中学までの秋菜だ。
高校生になり、生活の中心が恋人の豪太となった秋菜は、可哀想ではなくなった。
そして、由紀恵が娘の恋愛にとても理解がある母親だと知る事になる。