唯一無二のひと
遠い夏の日
豪太は休みの日ごとに秋菜の家を訪れるようになり、由紀恵はそれを楽しげに受け入れた。
母娘二人で行く映画やショッピングに豪太も連れていってくれた。
やがて、自分が留守中の家の中で、15歳の愛娘と彼氏が関係を持っていると薄々気付き始めた由紀恵は、二人を咎めることもせず、普通の母親ではない行動を取る。
『何かあったら困るのは、女の子だから。本当に大切なら、必ず着けてあげてね』
蕎麦屋でアルバイトはしていたものの、小遣いの乏しい豪太が決して安くはない避妊具をいつも持っているのが、秋菜には不思議だった。
結婚してから、豪太が告白した。
あれは由紀恵が用意し、豪太に手渡していたのものだとーーー
ーーそうだ……
秋菜は気づく。
由紀恵がいたからこそ、豪太との愛を大事に育むことが出来たということを。
「ママはダメね…」
由紀恵の瞳は涙で潤み、今にも溢れだしてしまいそうだった。
震える人差し指の先で涙を押さえる。
「こんな風に、今でも自分のことで精一杯なんて私は母親失格よね…」