唯一無二のひと
美瑛
午前九時過ぎの羽田空港発、新千歳空港へ向かう飛行機は満席だった。
夏休みだから、家族連れが多い。
(やっと、落ち着いてくれた…
本当にママがいてくれてよかった…)
ワゴン車の助手席で秋菜は心からホッと胸を撫で下ろした。
ようやく北海道の大地をふみしめたというのに、もう半分くらい抜け殻だった。
柊は初めての飛行機をとても嫌がり、機内でひたすらぎゃんぎゃん泣き続けた。
周囲の冷たい視線の中、由紀恵と交代で柊を抱っこして1時間半のフライトとなんとか乗り切った。
新千歳空港前で借りたこのワゴン車の後部座席に取り付けられたチャイルドシートにも、最初、拒否してなかなか座ってくれなかった。
柊は臆病なところがあり、なんにしても、すぐに馴染んでくれなかった。
大人三人が宥めすかして、どうにかやっと座らせた。
泣き疲れたせいか、チャイルドシートに座るとすぐに柊は、ぐっすり寝てしまった。
「なんでこいつ赤ん坊の癖に、こんなに頑固なんだ!」
運転席の豪太がハンドルを握りながら、うんざり顏で言う。
「パパに似たのよねー?」
助手席の秋菜が後ろに座る由紀恵に言い、皆で笑った。
由紀恵が、あどけない寝顔を見せる柊の頭をそっと撫でる。
由紀恵は、胸元に細かなフリルがついた光沢のあるオリーブグリーンのブラウスにベージュのシンプルなクロップドパンツを合わせていた。
ショップで働いていた秋菜から見ても、華やかでエレガントな着こなしだ。
秋菜は、飛行機に乗るのも、北海道も初めてで緊張してしまった。
幼い子供もいることだし、とにかく動きやすい服装を、と思いTシャツとジーパンで来てしまった。
豪太も似たようなものだ。
由紀恵の格好を見て、せっかくの旅行なのだから、もっとお洒落してくれば良かったと後悔した。