唯一無二のひと



三日前には、皆で島田の家に挨拶しに行った。


『いらっしゃい』


島田は玄関の外に出て、秋菜達を出迎えてくれた。

庭には、手入れの行き届いた芝生が敷かれ、花壇には、アサガオや向日葵などの夏の草花が植えられていた。


家に上がらせてもらうと立派な木目調のコーナーキッチンがあった。


壁の白いタイルにはモザイク模様のパネルがはめ込まれ、調理台には寸胴鍋やフードプロセッサーが並ぶ。


壁のラックには、大小のフライパンが吊り下げられていた。


『島田さん、お料理が趣味なの。
とっても上手なのよ』


由紀恵が言った。


『こんにちは、秋菜ちゃん。
大きくなったね』


島田は秋菜を見ると優しい声で言った。


島田がとても穏やかな目をしている事に秋菜は、その時初めて気が付いた。


秋菜が島田に逢うのは、高校の卒業式の夜、中華街での会食以来、10年振りだ。

けれど、由紀恵の家で島田のごく最近の写真を見ていたから、違和感はなかった。


『初めまして。僕は篠原豪太と言います。桜木町のビストロでスーシェフしてます。よろしかったら、今度店の方へお越し下さい』


豪太は身体の前で手を組み、料理人らしく爽やかに挨拶してみせた。


家で仕事の話は全然しないから、豪太がスーシェフなどというポジションにいることを秋菜は初めて知った。


バスガイドをからかい、泣かせたあの頃の豪太は、もうどこにもいない。


『柊くん、こんにちは』


島田に話しかけられると、柊は素早く父親の豪太の後ろに隠れた。


豪太の長いジーパンの脚のあいだから、覗くように島田を見る。

ぷっ…

秋菜は吹き出した。

昨日、耳鼻科に行ったばかりだった。


『柊はお医者さんだと思っているのよ。痛いことされるから嫌だって』




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