唯一無二のひと
ーー秋菜のお母さんは、ほんっとに何も知らないんだから。こっちから言わなきゃ音沙汰なしなんだものね。
前に明美は、豪太のいる前で嫌味を言った。
それは確かだった。
秋菜の母・由紀恵は行事や習わしに疎い。
でも、そんな言い方ない、と秋菜は母を庇いたくなった。
「さて、そろそろお買い物に行かなくちゃ。伯母さん、お家まで送りますね」
「そうかい、悪いねえ、秋菜。
お茶、ごちそうさん」
スーパーに行くついでに、車で10分ほどの距離にある明美の家まで送ってやる。
もちろん、歩くのが面倒な明美は最初からそうしてもらうつもりだ。
いつものことだ。
明美の家の前で、笑顔で送り出し、車のドアをバタンと閉めた途端。
「あっ……」
秋菜はガソリンメーターが1/3を切っていることに気が付いた。
明日休みの豪太は、ガソリンを入れに行く、と言い出すだろう。
「はあ…また値上がりしてるんだよなあ」
自然に溜息が出た。
本当にガソリン代もばかにならなかった。
でも、秋菜が暮らす都会から少し離れたこの地では、車は必須だ。
手放すわけにはいかなかった。