唯一無二のひと



ーー秋菜のお母さんは、ほんっとに何も知らないんだから。こっちから言わなきゃ音沙汰なしなんだものね。



前に明美は、豪太のいる前で嫌味を言った。



それは確かだった。

秋菜の母・由紀恵は行事や習わしに疎い。

でも、そんな言い方ない、と秋菜は母を庇いたくなった。




「さて、そろそろお買い物に行かなくちゃ。伯母さん、お家まで送りますね」


「そうかい、悪いねえ、秋菜。
お茶、ごちそうさん」


スーパーに行くついでに、車で10分ほどの距離にある明美の家まで送ってやる。


もちろん、歩くのが面倒な明美は最初からそうしてもらうつもりだ。

いつものことだ。





明美の家の前で、笑顔で送り出し、車のドアをバタンと閉めた途端。


「あっ……」


秋菜はガソリンメーターが1/3を切っていることに気が付いた。

明日休みの豪太は、ガソリンを入れに行く、と言い出すだろう。


「はあ…また値上がりしてるんだよなあ」


自然に溜息が出た。

本当にガソリン代もばかにならなかった。

でも、秋菜が暮らす都会から少し離れたこの地では、車は必須だ。

手放すわけにはいかなかった。



< 9 / 99 >

この作品をシェア

pagetop