唯一無二のひと
1歳の柊にも、大人用の布団があてがわれ、柊は眠い時の癖で親指を吸いながら、布団の上でゴロゴロしていた。
由紀恵が畳に正座し、自分の旅行バッグを整理しながら言う。
「今日はなんだかもう疲れちゃった。
秋菜ちゃん達がお風呂に行ったら、すぐ、柊ちゃんと寝るわ。
私、この頃本当に疲れて仕方ないの。
やっぱり歳なのね」
(ママ…?)
秋菜は耳を疑った。
母が自分のことを歳だ、なんて言うのを初めて聞いた。
そういう風に言うのを嫌っていると思っていた。
母親の由紀恵がいつまでも若々しいのが、秋菜の秘かな自慢だったから、ショックだった。
『…私も歳だから、手術の後、身体が戻るか心配なの…』
由紀恵の心の中の不安な声が聞こえた気がした。
「今日は疲れて当然よ。
朝からずっと動きっぱなしだったもん。私だって、疲れたよ」
つい不機嫌な物言いになってしまい、そんな秋菜の様子に由紀恵は困惑した表情を見せた。
豪太が軽く秋菜を睨む。
秋菜はしまった、と思った。
由紀恵は今日ずっと柊を抱っこしててくれていて、そのおかげで秋菜は身軽に過ごせた。
疲れはそのせいなのに。
それに、由紀恵はもともと寝るのがとても早い。
午後九時くらいに寝てしまう時もある。
早寝は今に始まったことではないのに。
慌てて付け足した。
「早く寝るのが、ママの美容の秘訣だもんね!」
今度は明るい感じでいうことが出来た。