唯一無二のひと
時折もがくように、秋菜は手足を
動かし、大きく湯が波打つ。
その度に眉根を寄せ、切なげな目をした豪太の襟足の毛が湯に濡れ、ポタポタと雫が落ちる。
最愛の男と共有するめくるめく快楽ーー
昇りつめてしまいそうになるのを、
秋菜は堪えることができなかった。
北海道の大自然が、眠らない樹木たちが、抱き合う二人を静かに見守っていた。
浴衣の秋菜と豪太は、腕を組んで
ホテルの廊下を歩いた。
背の高い豪太は、少し格子柄の浴衣が
短い。
頬の火照りがおさまらなかった。
「ちょっと、外に散歩しに行こうか?」
「うん」
豪太が言うのに秋菜は、こくんと
うなづいた。
部屋では、由紀恵と柊が寝ている。
もう少し二人だけの世界に居たかった。
照明の落とされた薄暗いロビーを抜け、玄関の出入口に用意されていた外履きのサンダルに履き替えた。
自動ドアの前に立つと、待ち構えていたように、ウイイン、という鈍いモーター音がしてドアが開く。
腕を組んだまま、漆黒の夜の闇の中へ
足を踏み入れる。
外へ出た途端、むせ返るような草木の
香りが二人の身体を包み込んだ。
「わあっ!」
夜空を見上げ、秋菜は思わず叫んだ。