リアル
 サトシのことを考えると恐くて涙が滲み出る。
 サトシはいまどんな状態にいるのだろう? まさかということはないのか?
 考えれば考えるほど、サトシはこのまま居なくなってしまう気がした。何も知らないのに、何も聞いてないのに、何も見てないのに、
ただ事故って入院しただけなのに。
 キイチもヤバいなんて言ってないのに。
 想像だけのサトシの死が頭の中をまわる。
 到着までの一時間半、勝手に膨らんでいく不快な妄想を打ち消すように叫び被せ続けた。 
 死ぬわけがない、まさかそんなことが起こるわけない。友達が死んでしまうとかはテレビや映画の中の話で俺のまわりで起こるはずがない。みんなフィクションなんだ。妄想が湧く度に叫び続けた。
 ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!・・・
 機械音が鳴り響く、固まっていた体がビクついた。ベルト着用サインが点灯している。意識が目の前に戻った。なんか飛行機に乗った瞬間からずっと、自分の頭の裏ばかりを見ていたような気がする。
 窓の外には見慣れた色が広がっていた。三ヶ月振りに見る青と緑は色々なことを叫び続け、言葉が汚くが散乱した頭を少し落ち着かせてくれた。
 飛行機の振動がだんだん激しくなる。色が形に変わっていく。衝撃と共に着陸した機体は所定の位置を探してクルクル回る。乗客ががさごそ動きだした。持ち出す荷物を持たない俺はベルトを外し人が流れ出すのを待った。
 立ち上がった瞬間からまた自分の現実に引き戻された。
 動く事を考える、迎えに来ているはずのキイチを探す。サトシの為の行動だけどサトシの現実が薄れる頭。
 サトシの為の行動? いや、もしかしたらこの動きは自分の為の動きなのかもしれない。
< 10 / 36 >

この作品をシェア

pagetop