リアル
 まだ目の覚めないサトシはいつ起きるのだろう? 目が覚めた時、自分の姿を見て何を思うだろう。
 嫌な想像が頭の中を埋めていく。
 何度サトシの姿を思い出しても、嫌な想像をを繰り返しても、写真を見ているような、文章を読んでいるような、架空の出来事のような、そんな感じがした。
 でもこれはフィクションではない。
 サトシが事故を起こして、病院の集中治療室にいて、足をなくして、まだ目を開けないことは現実としてあって、ちゃんと自分の目で見て知っているのに、気持ちがついてこない。まだ受け入れ入れない。
 自分戦争開戦。希望、恐怖、現実、逃避。間隙を与えず繰り広げられる攻防。終わりの見えない戦い。

 ♪〜
「・・・はい」
「ヒロ? 寝ちょった?」
「・・・ん」
「俺いまからサトシんとこ行くけどお前どーする?」
 昨日と同じ声でキイチが言う。
「行くわ、あいつらは?」
「タツは行くって、ハルは電話でんからわからん」
「そう」
「タツ先拾ってから行くけー待っとって」
「・・・ん」
 目が覚めてから、自分が寝ていた事に気付いた。
 どんなにサトシの事を考えていても、自分戦争を繰り返しても、普通に生活を送っている。そんな自分に苛立つ。
 苛立つという表現は違うのかもしれない。
 胸を掻きむしりたくなるような、奇声を上げたくなるような、そんなわけのわからない感情。
 とりあえず、このいまの状況、自分の感情全てをバカにしているようなような間抜けな着信音を消そう。
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