リアル
 いい匂いの詰まった部屋の中心にあるこたつの上、そこに並べてある夕食は俺の大好きなものばかりだった。
 母さんの思いが痛かった、俺の抱える罪悪感が虚しかった。
 漏れそうになる嗚咽を飲み込んだ喉が痛くて、好物の味かわからない程苦しかった。
 俺の為だけに用意された夕食を入るだけ詰め込んで箸を置きそのまま横になった。実家に帰ってきて初めて家族の側で寝転んだ。
 いつも思ってた、ここに帰ってきてこうしてると、東京で暮らしている自分の日常生活はまるで嘘のようだ。ずっとここにいて、いまみたいに寝転んでいた気がする。
 もしかしたら俺は望んでいるのかもしれない、こうやって暮らすことを。
 そんなことを考えながら母さんの後姿を見ていた。
「母さん、帰ってきてもええ?」
 びっくりした顔で母さんが振り返る、でもその言葉を発した自分の方が驚いていた。
「帰ってきたいんやったら帰ってくればええやん」
 母さんはなにも聞かずそれだけを言うとまた家事を始めた。
「そーやね」
 俺もこの話しを続ける気がなかった。本心だろうけど本気じゃないから。
「母さん、コーヒーちょうだい」
「ちょっと待っちょき」
 母さんも俺の迷いに少し気付いてるみたいだった。あえてなにも聞かず、なにも言わない。
 目の前に置かれたコップを持ち、なにも喋らず手に取り、自分の部屋に向かった。
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