リアル
今日、俺は東京に帰るべきなのだろか…。本当にわからなくなってしまった。どうしたらいいのか、どうしたいのか。
俺は何を待っているのだろう。それはもちろんサトシの目が覚めることだ。でも、もし覚めなかったら? 何日も何ヶ月も寝たままだったら? 俺はどうするんだろう?
時計は九時を回っていた。会社はもう始まっている。頭の中はカラッポのままなのに手はボタンを押していた。
コール音を一回鳴らしただけで落ち着いた声が奥から聞こえた。
「はい、大通でございます」
めいっぱい作りこまれた女の声。
「お疲れ様です。高橋ですけど、課長いらっしゃいますか?」
「お疲れ様、ちょっと待って」
電話の相手が俺とわかるなり声のトーンがビックリするほど落ちた。
保留音が響く。音ばかりが頭の中に流れ込み、何を話せばいいのかわからなくなってしまった。
「もしもし」
低い声が響く、何かしゃべらなくてはと気持ちばかりが焦り言葉がでてこない。
「もしもし?」
低い声がもう一度繰り返した。
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