リアル
 俺はいまから遊びにいくんだった。こんな話しを聞いた後に、普通に遊びにいける奴がいたら、お目にかかりたい。携帯を握り直し、会う筈だった友達にドタキャンの電話をする。使った言い訳は、急に会社から呼び出された。休日に呼び出されるような仕事してないけど。
 そしてまた自分戦争サトシ戦が始まった。
 結局人は不安には勝てないんだと思う。どんなに希望を引っぱり出して、不安に蓋をし隠しても、あることはわかっているから気になってしょうがない。恐くてしょうがない。どんなに戦っても勝敗はつかない。というかこの戦いに勝敗はあるのだろうか? 何が勝ちで何が負けなんだ? 
 勝敗はつかなくても一つだけ決めることができた。
 また携帯を握り直す。呼び出し音を何回か響かせた後、重っ苦しい声が聞こえた。
「もしもし」
「キイチお前いまどこおるん?」
「さっきまでサトシんとこおったけど、いま家帰ってきた」
「そっか、俺さー、いまからそっち帰えろうと思うんやけど」
「はぁ? いまから?」
「ん、いまから」
「わかっとるやろうけど、お前が来てもどうもならんぞ」
「わかっとる。わかっとるけど・・・」
「わかっとるんならもうちょっと考えーや、明日月曜よ。仕事あるやろうが」
「なんとかなるやろ。たぶんやけど。仕事よりなにより、気になるし」
「それはわかるけど・・・」
 キイチの声に比べてハキハキした俺の声が耳につく、きっとまだ事実を現実にできてないんだと思った。
「いまから空港いくけー、飛行機の時間わかったらメールするわ。
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