リアル
「あっそ」
「すいません」
「もういいよ、つーか駄目っつても帰るんでしょ」
「すいません」
「わかったって、でも俺は許可したわけじゃないから、後で課長になに言われても知らないよ」
「はい」
「また状況連絡して」
「はい、迷惑掛けてすいません。失礼します」
 溢れ出る緊張と苛立ちを抑えながらなんとか話し終え、電話を切った後に残った感情はサトシへの心配ではなく、自分に対する無力感と上司への苛立ちだった。
 友達が事故って入院したというのは会社を休む理由にはならないのか? 俺のとった行動は社会人としてあり得ない事だったのだろうか? 俺は上司に対してどんな言葉を期待していたのだろう。こうなる事がわかっていたから電話を掛けることにあんなに緊張していたのに。
 たぶんそうなんだろう、きっと他の人間から見れば俺のしたことはバカとしか言いようがないのかもしれない。
 この行動も俺の甘えなのかもしれない。
 もし俺が毎日自分戦争を繰り返す暇などないくらい仕事に没頭していたら、充実感に満ち溢れた生活を送っていたら、俺はどうしていただろう? 今日の連絡で今日帰ったのだろうか?
 そんな事を考えながらも体は動く、電光掲示板に目を向けると搭乗案内中の文字が既に流れていた。
 機内に入りチケットの半券を手に座席を探す。後方窓側、こんな状況でも座席を指定している自分に苛つく。
 座席に座り携帯の電源を切る。ベルトを締めた瞬間からまた自分戦争が始まった。
 恐怖が体の中を通り抜けた、全身がだんだん冷たくなっていくような感じがした。
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