濡れる視線 ~彼氏がいるのに図書館で~
「雪、だな」
彼はそう言って、窓の外に視線を移した。
「寒いですね」
私はそう答えるのがやっとだった。
広い図書館の中で、この場所だけ違う空間のようだった。
「温めてやりたいけど、できないよ」
彼は、ふっと笑ってからそう言った。
「わかってます」
私は、余裕ぶって笑顔を作って見せたが、彼は私を見てはくれなかった。
私達は、いつもこんな感じで。
ふたりの間に確かにある“愛”に気付いているのに、口にはしない。
好きだなんて、これからも絶対に言い合うことはないだろう。
こうして、時々・・・・・・
この図書館で会う。
同じ場所で同じ時間を過ごすだけ。
彼には守るべき家族があって、私にも彼氏がいる。
その現実をしっかりと受け止めた上で、お互いを必要としている。
今の幸せを守るための、エッセンスとでもいおうか。
私は女なんだと実感できる時間だった。
彼にとってもまたそうである。