《俺様的》彼女の手なずけ方
「私は…篠原さんが羨ましい」



清香さんが、ポツリとこぼした。



さっきまで気丈に話していたけど、俯きその表情はよく見えない。



「どんなに頑張っても、従姉妹っていう立場だからナルから相手にしてもらえない。結婚はおろか、恋愛することなんて一生ないだろうから」



「…………」



「だからこそ、ナルの人生をサポートする道を選んだの。彼が、人生を踏み間違わないように。篠原さんと一緒になればナルは心から満たされるのかもしれない。けれどそれは本当の幸せなのかしら」



それは、あたしにはわからない。



ナルがこれまでどういう教育を受けてきて、どんな生活をしていたのか、未知の世界だから…。



なにが一番幸せなのか、それは人それぞれだよね。



「今はいいわ…けれどいつかあなたは、後悔するはず。なにもかも奪って、ナルに辛い思いをさせたいの?」



育った環境が違う。



うちのお母さんがしたような駆け落ちは、きっと稀なことで。



女性の立場だからできたことかもしれない。



あたしといることで、ナルの人生が全く別なものになってしまう。



ナルの人生を…奪うことになるんだ。



そういうことに、なるんだよね…。



「わかってくれたかしら。いい返事を期待しているわ。これは全てナルのためなの。いつか、これでよかったと…必ずそう思える日が来るわ。よろしく頼むわね」



「今すぐ、決断しないとダメですか」



「そうね、せめて午前中には。荷物をまとめて、ご実家へおかえりなさい」



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