雨宿り
「ごめん、気づかなかった」

彼は卒業した大学の後輩。オカルト研究のサークルで、幽霊談などを話していた仲間だった。

「懐かしいね」

今でもオカルトは得意分野ですよ、と彼は囁く。

「俺、この図書館に幽霊が出るって噂を聞いてここに就職したんです」

相当の筋金入りだ。

「それで、幽霊は見たの?」

「それが、まだ」

悔しそうなのがおかしい。

私は笑顔を浮かべながらも、窓の外を眺める。
ずいぶん前から雨は小降りに変わっている。

「ありがとう。そろそろ行くわ」

「また、来てくださいね」

私は頷いた。同時に携帯が鳴る。
車中に待たせている同僚の彼氏から。私がなかなか戻らないせい。
すぐに戻ると言って携帯を切ると、

「本当に。また来てくださいね」

名残惜しむように彼が言った。

私は図書館を出る。
懐かしさと同時に胸に広がる甘酸っぱい感情。それは近いうち、またここへ来る予感をさせる。

弾む想いは彼氏の待つ、車の前まで続いた。

―おわり―
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