お嬢様になりました。
リムジンのドアを開けている燕尾服の男。


確か葵の専属執事。


車から降りた葵は、まだ俺の存在に気付いてない。


葵は執事と何やら言葉を交わしている。


そんな葵が何故か執事に頭を下げた。


やっぱり変な女。


お嬢様は普通、執事に頭を下げたりしない。



「あっ! 玲っ!!」



俺に気が付いた葵が満面の笑みで手を振ってきた。


まるで園児だな。



「ごめん、待たせちゃった!?」

「いや、俺が早く着いただけ。 行こう」

「あ、うん」



葵は執事に向き直すと、笑みを浮かべたまま口を開いた。



「じゃあ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ。 お帰りの際にはお電話下さい」

「はい、分かりました」

「東條様、葵お嬢様をどうぞ宜しくお願い致します」

「あぁ」



執事に見送られる中、俺たちは映画館に向かった。



「いつもああなのか?」

「ん? 何が?」

「執事に頭下げたり、敬語使ったり」

「そうだよ。 何で?」

「別に……変なの」



首を傾げる葵。


何が変なのか分かってないんだろう。


葵はお嬢様だけど、俺の知っているお嬢様たちとは雰囲気も性格も全く違う。


だから葵と一緒にいると落ち着くのかもしれない。





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