お嬢様になりました。
チケットを買う為財布を取り出したら、横からお札を持った葵の手が伸びてきた。



「いらない」

「ダメだよッ」



こういう時普通女は金出さないものじゃないの?


今までの女は俺が金を出すのなんて当たり前みたいな顔をしてたし、俺も男が金を出すものだと思ってたから、それは別に気にしなかった。



「これご褒美だろ? 葵が金出したら意味ない」

「でも……」

「こういう時は素直に甘えろよ」

「……うん、ありがと」



口ではありがとうといいながら、唇を尖らせている葵の頭に手を置いた。



「そんな顔したら可愛い顔が台無し」



火を吹くんじゃないかと思うくらい、葵の顔が真っ赤になった。


本当、一緒にいて飽きない。


チケット代を払い終えると、葵に袖を引っ張られた。



「どうした?」

「飲み物とか買いに行こうっ」



目をキラキラと輝かす葵に、思わず笑みが零れた。


まるで遊園地にでも遊びにきた園児だな。



「映画観るの久しぶりで、ドキドキしてきちゃった」

「そんなに観てないのか?」

「中学生の時に両親と観たのが最後なんだ……」



葵は寂しそうな目をして、チケットを見つめていた。



「あお……」

「玲は飲み物何にする?」



注文する順番が回ってきて、聞くタイミングを逃してしまった。



「アイスコーヒー」

「私はアイスティーでお願いします」



笑って店員に注文する葵。


その姿は普段通りの葵で、葵の目からはさっきまでの寂しそうな色はなくなっていた。





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