お嬢様になりました。
俺と手を繋いだまま、楽しそうに色んな店に目を向けている葵。


そんな彼女を見ていたら、海堂の名前を口に出したくなかった。


今は俺との時間だから。


たとえ名前だけだろうと、あいつに邪魔されたくない。



「あのお店、入ってもいい?」

「あぁ」



葵は店に入ると、レディース物の横を素通りし、メンズ物が置いている場所へと向かった。


そして何故だか、ネクタイが並んでいる場所で足を止めた。



「一緒に選んでほしいんだけど、ダメかな?」

「……誰に買うんだ?」



まさか海堂に?


そう考えるだけでイラっとする。



「お祖父ちゃんっ」

「……お祖父ちゃん?」

「うんっ。 もうすぐ誕生日なんだって、荒木さんが教えてくれたんだ」

「荒木さん?」

「荒木さんって言うのはね、私のお世話をしてくれてる執事さんで、玲が朝会った人だよ」



あぁ、あの執事か。


葵は執事の事をさん付けで呼ぶのか。


変わってる。



「まず葵が幾つか選んで。 その中から一緒に決めよう」

「ありがとう」



葵は表情をコロコロ変えながらネクタイを見始めた。


祖父へのプレゼントだと聞いて、瞬時に胸の靄が晴れていった。






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