お嬢様になりました。
俺の隣に腰を下ろした葵は、あからさまにホッとした顔をした。


今まで女にこんな態度を取られた事がなくて新鮮ではあるが、多少複雑な思いもある。


無償に悔しくて、葵の手を握った。



「れ、玲!?」

「何?」

「な、何でも、ない……」



俯いた葵の顔はさっきと変わらず真っ赤だった。



「何のバイトしてたの?」

「コンビニのバイト。 みんないい人で、辞める時泣きそうになっちゃった」

「葵は泣き虫だからな」

「ははっ、泣き虫は卒業したはずだったんだけどな……」



切ない表情を浮かべ、観覧車から見える海を眺める葵の横顔に見惚れてしまった。


仕事柄綺麗な女や可愛い女はたくさん見てきた。


でもどの女も今の葵には敵わない。



「どうして卒業しようと思ったんだ?」

「両親が死んで、暫くは誰も居ない家に帰るだけで泣いてた。 でもその度に虚しさに襲われた……だから泣くのを止めたの。 強くなりたかった……」

「無理に卒業する必要なんてない。 俺がいる」



葵は驚いた顔を向けると、その顔は直ぐにはにかんだ笑みに変わった。



「ありがとう」



繋いだ手に力を込めると葵もギュッと握り返してくれた。


そんなちょっとした事が嬉しかった。





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