お嬢様になりました。
ッッ!?


誰かにグイッと腕を引っ張られ、体が傾いた。


そのまま倒れそうになるのを、慌てて足で踏ん張った。


ーパンッッッッ!!


渇いた音がして顔を上げると、目の前にはよく知っている横顔があった。



「りゅ、うき……」



庇ってくれたの?


どうして……。


女の子は唇を震わせ、怯えた目で隆輝の事を見ていた。



「あ、あの……私……」

「これで昨日の分はチャラだ。 いいな?」



隆輝は女の子には見向きもせずに、山口君にそう言い放った。


有無を言わせない威圧的な物言いに、山口君はただ頷いた。



「今日から放課後はそこを使え」

「えっ!? あの……これは……?」



隆輝が放り投げ山口君に渡したものは、ゴールドのアンティーク調の変わった形をした鍵だった。



「特別校舎にある温室の鍵だ。 理事長の許可ならもらってある」

「お気持ちは嬉しいんですけど、僕みたいな一般生が特別校舎の敷地内に入るなんて……」

「グダグダうるせぇんだよ。 お前の為じゃない。 あんなきたねぇ教室、葵には似合わねぇんだよ」



隆輝……。


口は悪いし態度はでかいけど、これは隆輝なりのお詫びのつもりなんだろうと思うと、胸が温かくなった。





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