お嬢様になりました。
少し体を動かそうと、ベンチから立ち上がり温室の中を歩いて回った。


これだけいろんな種類の植物を揃えるのって、大変だっただろうな。


まるで植物園に来てるみたい。


小さい頃は花に興味なんてなかった。


でも今こうして花や草木に包まれてると、凄く癒される。


立ち止まって花をじっくり見ていたら、背中に温もりを感じた。


お腹に回された腕は、ギュッと私を抱きしめた。



「隆輝……?」

「お前さ……」



そう言うと隆輝は黙り込んでしまった。


私の首筋に顔を埋め動かない。


温もりと微かに触れる吐息に心臓がドキドキする。



「な、何よ?」

「…………」

「ちょっ、聞いてんの!?」



何で急に静かになっちゃうわけ!?


こ、こんな体制で私にどうしろと!?



「隆輝ってばっっ!!」

「……何でもねぇ」



何でもないって……そんな風には思えないんだけど……。


隆輝らしくない。



「ねぇ、どうし……」

「お待たせしました!!」



山口君の明るい声が温室内に響き、私は慌てて隆輝から体を離した。



「どうかしたんですか?」

「う、ううんっ!! どうもしないよ!!」

「これ、良かったら飲んで下さい」

「っありがとう」



私は笑ってペットボトルのお茶を受け取った。


顔、引きつってないといいんだけど……。


また三人になってからは隆輝はいつも通りで、結局何が言いたかったのか聞く事は出来なかった。






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