お嬢様になりました。
玄関の前で泣きじゃくる私の肩に、誰かの手が触れた。


顔を上げると、困ったように微笑む浅賀さんが居た。



「そんなに興奮されてはお身体に触ります。 一度お屋敷の中へ入りましょう」

「でも……」

「外に長く居られては、お体が冷えてしまいます。 温かいお飲物をご用意致しましょう」



冬の季節に入ったばかりの風は段々と冷たさを増し、確かに既に指先は冷えてしまっていた。


私はお祖父ちゃんの顔を見る事が出来なくて、浅賀さんに促されるまま家の中に入った。



「葵お嬢様っ!!」



家に入るなり、メイド長の丸井さんが駆け寄ってきてくれた。


安心させたくて笑って見せると、丸井さんは目を潤ませ手で口元を覆った。



「お帰りなさいませ。 ご無事で何よりでございます……っ」

「ご心配お掛けしてすみませんでした。 来月には年も明けるし、その時は着物着せて下さい」

「勿論でございます」



私はメイドさんたちに頭を下げ、浅賀さんと一緒に自室へ向かった。


話をする気にはなれなくて、部屋につくまでの間、私たちの間には会話はなく静かだった。





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