男ときどき女
自宅にて。親に女装が見つかる前に着替えた後、自分の部屋のベットに寝転がりながら携帯をポケットから取り出した。

「さてと...」

紙に書いてある番号とにらめっこしながら慎重に携帯に打ちこんでいく。

今、こんな変な奴に番号教えてくれるなんてすごいと思った。よほど女装が板についてたんだろう。

一瞬だけセッティングしてくれた友人に感謝した。


携帯を片耳にあてる。その時俺は、番号がニセモノだったらという疑問を抱かなかった。

心のどこかであの人を信用しきっていたからだろう。


プルルルルというお決まりの音が耳を通っていく。四、五回鳴ったあとにそれは途切れた。


「もしもし?」

あの声だ。俺はなぜかホッとした。


「えーっと、あの、昼間の桐谷ユイという者ですが...」

“者”を使ったことに激しく後悔。“ですけど”でいいじゃん。

少し沈黙が流れる。


「あ!あぁ、あの時の!」


“者”はそんなに気にしてない様子、よかった。






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