男ときどき女
森の中の一本道に入った。

太陽の光が途切れ途切れに差し込んでいる。鳥の鳴き声も聞こえ、妙に心が和らぐような場所だった。

でもこの距離は短く、すでに森の出口まで来ていた。俺は本来の目的を思い出し、サクラの近くまで駆け寄っていった。


足音に気付いたのかこちらを振り向いた。なんだろうという顔で俺を見た。

「これ」

それだけ言って人形を差し出した。彼女の目は一気に見開かれた。

「あ、ありがとう」

両手で受け取り、そのまま胸に当て「よかった」とちいさな声が聞こえた。

「大事なものなの?」

俺は安心した顔を見た後に訊いた。

「う、うん。お婆ちゃんの形見なんだ。これは私に作ってくれたものなの」

「へぇー、ところで君の名前は?」

知っているがあえて知らないフリをした。

「サクラだよ。じゃあ君は?」

「サクラっていい名前だよね。桜って好きなんだ、俺」

それにしてもじゃあってなんだ。向こうも知っているのかもしれないな。


「俺は......」

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