男ときどき女
なんていい人だ。

「あの、弁償させてください!」

そう言わずにはいられなかった。

「いえ、本当に大丈夫ですよ」


ここから、「お願いします」と「いえいえ」という攻防戦がしばらく続く。

こうなるとお互いは譲らない。


しばらくして。

「じゃあ電話番号教えてくれませんか?あとでまた電話するんで」


ようやく止まった会話。相手も急いでいたようだし、これならいけるだろう。

左手を口に当てて考えている。

よくみるとすごく可愛い人だ。絶対年上だろうなぁ。

「はい、いいですよ」


急にこっちを向くから目をそらしてしまった。胸がドキドキする。

「あの、お名前は?」

「あ、俺は...」

「俺?」

訊かれてハッとした。今自分が女装しているのをしっかり忘れていた。



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