書架の森で
西川祐人。
高校三年間を同じクラスで過ごした、初恋の人だった。
懐かしい甘酸っぱさと苦さが、口の中に広がる。
彼は女子にモテた。文武両道の優秀な生徒だった。
だけど毒舌家で、告白してきた女子をとことん追いつめるような男子だった。
だからあたしは、彼が大嫌いだった。
中学二年の夏のことだ。
当時愛読していたコクトーの詩集を、うっかり机の上に置き忘れて帰ってしまったことがあった。
朝、時間割をあわせていて気づいたあたしは、焦りに焦った。
あんな物みんなに読まれたら、確実に引かれる。