ビターチョコレートに口づけを
彼は、バカなくらいお人好し人です。
「――それでは、誓いのキスを。」
おとぎ話に出てきそうなくらいに美しいステンドグラスを背景に、真っ白なウエディングドレスに身を包んだ花嫁は、涙ぐみながら新郎を見つめた。
新郎はそんな彼女を支えるように力強く笑いかけ、そっと肩へと両手をのせて。
――一拍おいて唇が重なったその瞬間は、思わず息を止めるほどに美しかった。
「………納得がいかない。」
思わず溢してしまった声に、自分自身で驚く。
二人の幸せを素直に祝わないと、と思うほどに強くなっていくこの思い。
心は、そんな自己への嫌悪感に苛まれていく。
それを拭ってくれるように、隣の兄は私の頭を撫でて。
「……そうかよ。」
そう言ったきり黙ってしまった。
肯定してくれなかった事が少し寂しくもあるけれど、成人を迎えた兄にこの場で肯定しろというのも酷な話なのかもしれない。
だって、私の発言はどこから聞いても、大人の対応からはかけ離れている。
駄々を捏ねている小さな子供となんら変わらない。
ただ相づちを打つこと。
大人な兄には多分、それが精一杯だろう。
それがわかるから、私もそっと口を閉ざした。
今日は家族ぐるみで仲がよかった幼なじみの結婚式である。
おめでたいはずなのに、私を含めた私の家族の表情は暗い。
昨日はしょうがないと笑っていた兄や両親でさえ、いざ目の前にするとこの有り様だ。
………それなのに。
「おめでとう。」
私の左隣の彼といえば、嬉しそうにっこりと笑い、心底から彼等の幸福を祈っているように見える。
「いっくん」
ぽつりと彼の名前を呟くと、途端に胸が締め付けられた思いがした。
涙が上がってきて、油断したら泣いちゃいそうだ。
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