ビターチョコレートに口づけを
「雪、幸せになればいいな。」
「……うん。」
独り言みたいな呟きに、静かに相づちを打つ。
ちらりと覗いた横顔は、切なくて、悲しくて、強かった。
ドクンと動いた胸に、息が詰まりそうだ。
「お集まりの女性陣の皆様、お待たせしました。
ただいまからブーケトスをとり行います。
ご参加の方は、どうぞ中央へ。」
式場の方のそんな声が聞こえて、続々と女性達は中央へと集まっていく。
「ゆうも行っておいで。」
「うん、そうする!
楽しみにしてて!!!!」
「? うん、わかった。」
手をふってその場を離れて、既に沢山居る女性達の間をぬって、そこそこ前へと来れた。
雪に手を振るとにこり、と笑顔が帰ってくる。
「それでは、ブーケトスを執り行いたいと思います
。花嫁、お願いいたします。」
そのアナウンスを合図に、雪が後ろを向いた。
そして、一拍の後、ブーケをそっと、宙へと投げた。
ふわりと空中を舞う、真っ白なブーケはとても綺麗で、見とれそうになるが、そうもいってられない。
必死でそれに手を伸ばして、ジャンプした。
ほんとはだめなのかもしれないけれど、どうしても、欲しかったから。
沢山の手の合間をくぐって、何かが手のひらに当たったと思ったとき、それをしっかりと握って、自分の胸元へと抱え込んだ。
それに目を向ければ、思っていた通りの物で、うれしさで頬が緩む。
良かった、そう口にしようとしたが、その瞬間、足に激痛が走って、その言葉は喉へと引っ込んだ。
「…っつう…っ」
叫びにならない悲鳴を上げて、足元を見れば、誰かのヒールが、私の足先を踏んでいた。
そしてそれだけでは終わらず、私の足を踏んでいる誰かは、バランスを崩したようで、此方に倒れ込んできている。
避けようともするが、足を踏まれているせいで、避けられない。