ビターチョコレートに口づけを
あきれたようにそう言ったいっくんは私の横にしゃがみこんで、転んだせいで顔についた土を落としてくれた。
「ゆう!
おいおい、大丈夫かよお前。
汚れまくってんじゃん。ドレス。
母ちゃんにぶっ殺されんぞ。」
「え、まじで!!」
次にゆるーいに兄ちゃんの声が聞こえた。
慌てて自分のドレスに目をやると、兄ちゃんの言う通り、淡いピンクのドレスが土で汚れていた。
「ぎゃ!!!
ママに殺される!!!やだ、助けていっくん。」
「うん、いーよ。
後で家においで。着替えかしてあげるから。
その間にクリーニングに出したげる。」
「やった!
ありがとう!大好きいっくん!!!」
「でも、その前に、と。」
そう呟いたいっくんは、私をじっと見つめてきて。
な、なに?と返せば、少し申し訳なさそうな顔をしたいっくんがごめんね、って謝った。
え、何が、と言う前に、膝に手が入れられて、肩に手を添えられた。
それから、声をあげる間もなく、からだが宙に浮いて。慌ててブーケを持っていない手でいっくんの肩にしがみついた。
「ちょ、ちょちょちょおおおおお!!??
いっくん!!!???」
「うん、ごめんね?
ちょっと我慢してね。
慎司、どっか空いてる部屋あるって?」
「ああ、さっき聞いてきた。案内してやる。
おい、ゆう。
それ以上体重が重いって思われたくねぇんなら、大人しくしとけ。いいな?」
そう兄ちゃんに釘をさされた私は黙っていっくんにつかまることにした。
「別に、重くないんだけどなぁ。
体重なんて気にしなくていいよ、ゆう。」
「ばか、甘やかすな。
また、体重が増えんだろ。
お前この間……「わーわー!!!!!!黙って!!!それ以上言ったらパパに本気でさっきの事チクるから!!」
そう言った途端、静かになった兄ちゃんの顔には明らかに面倒だと書かれていた。