ビターチョコレートに口づけを
「分かったから。ぜってぇ言うなよ。
こう、全然怖くはないけど面倒くせぇ。
とにかく面倒くせぇ。」
「うん、だろうね。」
そう相槌を打つと、わかってんなら、んなこと言うな、と睨まれた。
「パパさん、ゆうのこと溺愛してるもんね……」
いっくんまでもどこか遠い目をして呟いた。うん。ごめん。
いっくんまで被害者だったとは。
「まぁ、でも。悪い人ではないから俺は好きだけどね。」
そう言って、笑ういっくんは本当に心が広い。
ああ、もう、本当に良い人過ぎる。
「俺は嫌いだけどな、あのくそ親父。」
それに比べてこの差である。
4分の1くらいは同じ血が流れているとは到底思えない。
そんな下らない話をしていたら、ある一室の前で兄ちゃんの足が止まった。
それにあわせていっくんの足も止まる。
「確かこの部屋。
包帯とか、湿布とかは貰ってきてるから安心しろ。」
そう言って腕を振る兄ちゃんの手には大きめの白い箱が握られていた。
いつの間に…!
「じゃあ、はいこれ。」
それを何故か、私の手に渡して。
「俺、行くわ。
なんか母ちゃんから何回も電話がかかってきてうぜぇから。」
もと来た道を戻ろうとする兄。
………ちょっと待てぇええええ!!!
「いや、え?は?
普通そこは妹を助けてくれるべきじゃないの?」
「助けてやったじゃねぇか。ここまで運んでやった。」
「いっくんがね!!??」
「んだよ、うるせぇなぁ。
救急箱借りてきてやっただろ?」
「いや、それは、まぁ…
ありがとう。」
「ん、じゃあな。
あんまおてんばしてまた壱を困らせんじゃねぇぞ。」
そう言って、本当に去っていった。
信じられん。