ビターチョコレートに口づけを
「あの鬼畜……」
思わずそう呟いたらいっくんが困ったように笑った。
「慎司はね、ゆうが倒れたの見たら、真っ先に部屋の手配して救急箱を借りてきてくれたんだよ。
まずゆうのところに駆け込んじゃった俺と違って、頭の回転早いよね、慎司って。
心配してないわけじゃないんだ、あいつだって。
多分、ひねくれてるだけ。
だからさ、そんなこといっちゃだめだよ。」
そう、いっくんがちょっとだけ意地悪く笑った。
「うわ、そればらしちゃっていいの?
兄ちゃん知ったら照れ隠しとかでいっくんぶん殴られるよ。」
「あはは、だから内緒ね。」
くすくす、と笑いながら、二人でそんな会話をした。
部屋の中に入ってすぐ、いっくんは私をゆっくりと椅子に下ろした。
それから自分は地べたにしゃがんで、靴、脱がすね?と私に尋ねた。
こくり、とうなずくと、ドレスに合わせたピンクの可愛らしい靴がゆっくりと外された。
痛まないように、と気を使って。
「うわー、親指腫れてる。
帰ったら絶対病院。」
何処か叱るような口調でそう言って、ゆっくりと処置を始めた。
その手つきも優しい。
「いっくん。」
「ん、なに?」
「ブーケ、ちゃんとゲットしました!」
「はは、代わりにこんな怪我してかえって来たけどね。
とりあえず、おめでとう、かな?」
「うん。はい。」
そう言って、ずっと手にしていたブーケをいっくんの前へと出した。
いっくんは意味がわからない、と此方を見上げている。
へへ、可愛い。
「……ん?」
「だから、はい。」