ビターチョコレートに口づけを
「あれを履こうとしたら、激痛が……」
「当たり前じゃねーか。アホか。
普通骨折した方の足はスリッパとか履くもんなんだよ。
スニーカーならまだしも、革靴なんて論外だ論外。」
またバシッと頭を叩かれて、そのまま、撫でられる。
「学校だろ?送ってってやろうか?」
ちゃり、と鍵を取り出した兄ちゃんは、私の顔の前でそれを揺らした。
「いや、それがさー。
私もそのつもりだったんだけど、昨日の夜いっくんからメールがあってさ。
これから毎日いっくんが送ってくれるらしいよ。」
「ふーん。」
そう言いながら、鍵をしまった兄ちゃんは、じゃあ、おれも用意すっか、と呟いて、リビングへと向かおうとする。
「え、何。
兄ちゃん今日帰んの?」
「明日から仕事だし。
親父がたまには帰って来いっつったから帰って来ただけだしな。」
大きな欠伸をした兄ちゃんは足を止めることなく、リビングへと戻っていった。