ビターチョコレートに口づけを
「おじさんもおばさんもだけどさ、ゆうと慎司が気にする必要なんて全くないんだよ。
だから、俺に変な気遣わずに、ちゃんと雪の事祝ってあげて。
…わかった?」
そう言ういっくんの声は優しくて、ちょっとだけ厳しかった。
だから、やっぱり元気づけてくれてたんだ、なんて言えるわけもなくて、うん、と頷くしか無かった。
「良い子。それと、ありがとう。
俺のために気にかけてくれてたみたいだし。」
にこっと笑ういっくんはやっぱりかっこよくて、優しくて、大人びていた。
いっくんは優しい。本当に。
困っている人は放って置けなくて、小学校の時なんか、予備の折り畳み傘と普通の傘を持って行ったくせに、両方とも誰かに貸してびしょびしょになって帰ってきたこともあるらしい。
兄から冗談混じりに聞いたその話を、当時は笑って聞いていたた記憶があるけれど、今思うと、今でも平気でそういう事をやりかねない節があるから全く笑えない。
彼の優しさは何時だって、誰にだって平等に与えられる。
例え、いっくんがどれだけ傷つくことになっても、彼は自分を犠牲にして相手を幸せにする。
そんな人だから。
だから私は、いっくんが大好きで、大切で―――そして、こわいのだ。
いっくんがじゃない。
いっくんの心がいつか壊れやしないか、どうしようもなくこわいのだ。
「…よし、元通りと。
ごめんね、結構乱してたみたい。
時間かかったでしょ。」