ビターチョコレートに口づけを

「…いや、大丈夫。ありがとう。」


口角を上げてそう言えば、いっくんは少しだけ困ったように笑う顔をした。
なんでそんな顔、するんだろうか。


「ゆーう。どうかした?」


すごく盛り上がっている会場内で、いっくんはそちらに目もくれずに私に話しかける。


「なんでもないよ。」


そう言って再び笑いかけると、……ほんと?と再度確認されて、小さく頷けば、わかったと微笑んでくれた。


「ほら、じゃあ、二人で雪んとこ行っておいで。
あっちも盛り上がってるみたいだし。」

「ちょっと待て。
二人って俺の事じゃねぇだろうな。」

「もちろんお前のこと。
ほらほら、大好きな幼馴染みが来なかったら雪も嫌でしょ。」



そう言って二人して背中を押されて、仕方なく歩き出した。
兄ちゃんなんか舌打ちまでしてる。怖い。

何度か振り返りそうになったけど、それは兄ちゃんにがっしり腕を引かれているせいで出来ない。
痛い、痛いって。


「おい雪!!!!」

「ちょ、兄ちゃん!」


人だかりがあるというのにこのバカ兄はそんなことも気にせずその中心人物の片割れの名を叫んだ。
やめろと牽制したが、奴は素知らぬ顔。

なんだこいつ。どこまで俺様至上主義なんだ。
なんか腹立ってきた。


「ひゃ!!??
って、え、慎司……と、ゆう!?」


私を視界に入れた途端、驚いたような顔をした雪に、若干ひきつりそうになりながらも笑いかけた。

まあ、驚くのも無理はないかもしれない。
だって、婚約宣言をした日から、雪とはほとんど話していないのだから。


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