声の魔法
あの男の人はどこにいるのだろう。

私はカウンター上の指示板をチェックして、失望する。
指示板には「予約受付」と書かれた場所がある。が、そこの受付は女性なのだ。

私は館内を歩いてみることにした。
本を運んだり、収納作業をしている男性がいるんじゃないかと。

「う~ん」

「なにかお探しですか?」

男の声がして、とっさに振り返る。が、私の期待は急速に萎んだ。

若いのだ。格好もラフで彼氏とそう変わらない、ジーンズのデニム。

「いえ、大丈夫です」

逃げ出すと、青年は首を傾げてから、カウンター席に戻っていった。

なんとなく、そちらを見つめる。他に男性の姿がないから。

青年が受話器を持つ。

「山梔子の森の図書館ですが、そちらに――」

私は目を見開いた。
あの声、だった。
低い、紳士的な口調。
私を魅了する声。
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