二次元が恋の邪魔をする件について
現実とリアル
きっかけは、ささやかすぎるしべったべただった。
放課後の第2コンピューター室。
その日の授業でまったく間に合わなかった課題を終わらせるべく、わたしはひとりもくもくとパソコンに向かっていた。
コンピューターは苦手だ。
なかなか埋まらない、白い画面を見つめていたら目がちかちかした。授業で使っているのより古びて黄ばんだキーボードが悲しい。
今日は検定があるとかで、いつもの第1コンピューター室は使わせてもらえなかった。
課題が完成しなかったのが自分ひとりだけだったんだから、さみしくても仕方ないし借りられただけありがたいと思わないと。
ひとりぼっち。
急に教室が広くなったように感じられて、さみしくなってつい明るいほうを見た。
窓の向こう、青空の下のグランドでは、サッカー部が練習をしてる。
フェンス越しに群がる女の子たち。
汗をきらきらさせて、ボールを自在に操る男子にあつい視線を送っている。
いーね、
うぃーね、
そういうの。
あこがれちゃうじゃない!?
……。
「うぃーね!」
気づけばいつもそこにいる。
おかしなせりふの聞こえる方に振り返った先にいたのは、親友のしゅうだった。
自称ファッションモンスターのしゅうは、今日はハーフアップの髪を猫の耳みたいにセットして、黒のもこもこしたリュックに合わせている。これが制服ブレザーに合うギリギリの猫っぽいファッションらしい。この冬は猫がきてるらしい。よくわかんないけど。
しゅうは、大きめのめがねをくいっと指先で上げた。くりんとした睫毛の向こうの、色素の薄い目がこう言っている。どやっ。
「ちょっと、勝手にせりふつけないでくれないかな」
「凌の心の声が痛いほど伝わってきたからさ。恋がしたい恋がしたいって。ゆえにアテレコした」
「アテレコ……?」
漢字を当てはめて意味を理解しようとして、一秒で断念した。
天然とかとろいとか、動作が緩慢だとかよく言われる。
それがいらつく、とも。
「アニメとか洋画でさ、声優さんとかが声を当てることだよ。メモっときな!」
「わざわざ書かなくとも覚えるわ」
しゅうは、わたしのペースを大事にしてくれる。
いや、面白がってるときもある。
決してばかにしたり、いらだったりしない。
マイペースで我が道をゆくしゅうの、ちょっとだけ人からずれたツボにはまれたことは、わたしの高校生活の最大のラッキーだと言えよう。