あの夏の永遠~二度と会えない君へ~
夢のような時間

幸せということ

それからは時々子供に無理を言って、江梨はヒロに会いに行った。

江梨には生まれて初めての幸せな時間だった。

普通の人にはあたりまえの事かも知れないけれど、朝目覚めたら愛する人の腕の中にいて、その人の為の食事を作り、その人を見送って、その人の為に二人の部屋を掃除して、買い物へ行き二人の為に食材を選び、その人の為にご飯を作り、洗濯したりしてその人の帰りを待つ事。

夜になり帰る時間頃になると、あてもないのに早々と外に出て、姿が見えたら手を振って、ピョンピョン跳ねながら喜んで、やがて駆け上がって帰ってくる愛する人と手をつなぎ部屋に戻り首に手を回しキスをする事。

二人で食事をして、何気ないおしゃべりをして、愛を確かめあったり、子犬のようにじゃれあって、重なりあって眠る、そんな幸せとは程遠い暮らしをしてきた江梨は、ヒロとそれを味わい、あんまり幸せで、多分これは江梨がこれから来る分の一生分の幸せを今使い果たしてしまっているのだろうと、わかっていてもそれでも構わないと思う程江梨は幸せだった。


二人ともが同じように幸せな時間だった。

それだけにヒロが卒業するまではいいとして、卒業したらどうなるかわからない不安は時にあった。

でも先を不安がって幸せな時間をそれで潰してしまうのは嫌だった。

幸せだなんて口にした事もない人生で、初めて味わった幸福に浸れる時浸っておかないと先でもうないだろうと思ったからだ。

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