藍白の鬼


「…………………」


「…………………」


「…………………」


「…………………」


「……は?」


漸く出てきた言葉はそれだった。


「ふむ。もう耳が遠いのか」


いや違うけど。


男は腕を組んで口を結んだ。


「仕方あるまい。もう一度言ってやろう。儂のs―—」


「あぁああいや、結構です!!!」


さっきのを二度だなんてたまったもんじゃない。


しかも声大きくして言うんだろ、勘弁してくれ。


「なんじゃ、聞こえておったのか」


男はふむう…と息を吐き、気怠そうに言った。


「異論はないな。よし、行くぞ」


いつの間にかあたしの目の前にいる男はそう言ってあたしの手を掴み、どこかへとツカツカ歩いていく。


「えぇえぇえ!!?いや、ちょ、ちょっと待て!!!」


「なんじゃ、喧しい」


あたしが喚くと、男は止まり、面倒臭そうにあたしの顔を見た。


「セイサイって何だ、セイサイって!!!日本語使えよ!!!てか、どこ行くんだ!!?あたし拉致られるのか!!?それとも殺されるのか!!?別にいいけどね!!!あと、なんであたしの名前知ってんだ!!!ストーカーなのか!!?その身なりで!!?目立ちすぎんだろ!!!つーか、誰だあんた!!?」


言い切ったあたしは肩で息をした。


こんなに長い間大声で言ったの久しぶりかもしれない。


だけどふと、男を見るとヤツは両手で耳を押さえていた。


「………………」


「すまん、喧しかったんで耳を塞いだら聞こえんかった」


―—これはまさか


男は真剣な顔をしてあたしにそう言う。


「普通の声量でもう一度言ってくれんかの」


「誰が言うかハゲ!」
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