藍白の鬼
目を開けると、京次が目の前の戸にいた。
不思議そうにあたしを見ている。
「何しとるんじゃ、こんなことで。しかも酒被って」
「………………き、気分転換?」
ここにいる京次にも驚いたが、それよりも京次の服についている真新しい血のような液体の方に驚いた。
嫌なことが頭を過ぎって、思わず嘘をついて右上を見る。
「……ほう…」
彼はそれだけ言いあたしの方へと一歩一歩近づいてくる。
「ちょなんでこっち来んの?」
何故かその姿があまりにも怖くて、威嚇する。
「馬鹿じゃのう。ひくぞ、風邪」
――好きでなったわけじゃねぇよ
内心そう思いながら、京次はあたしに纏わりついているハエを手で追いやり、あたしを抱え、葉月に風呂を任せた。
ふろから上がって、襦袢を着たところで京次に呼び出され、彼に着いてたどり着いたのは、何故かあたしが閉じ込められた小屋。
何をするのだろうと思っていると、ざぱーんと佳達にやられたように酒をかけられる始末。
「おい何してんだ、てめえ」
「どうせなら酒と一緒のほうがいいわ」
得意げに笑う京次に、また良からぬことだろうと思い、一応聞く。
「…………何が?」
「すぐに分かる」
だけど彼は教えてはくれず、いきなり唇をあたしの首へ押し付ける。
ビリリと電気が走ったみたいな感覚に襲われ、動けない。
あたしが逃げないように、京次は手をあたしの腰に回し、もう片方の手が太ももを這う。
「やっ、どこ触ってんだハゲっ!!!」
「どこでもよかろうが」
やけに甘い声が耳朶を打つ。
なんなんだ、これは。
どうしたんだ、こいつは。
「や、止めろンッ!!?」
「五月蝿い」
京次が次に行動を起こして、あたしは鳥肌がぞわぁぁぁぁと立った。
どうすればいいのか分からない。
口の中では京次の舌が暴れ、彼の手があたしの体を這う。
口の中の異物が無くなったかと思えば、体のほうで違和感を感じる。
「だ、止めろそこ触んな—―きゃンッ」
ササッと手で口を覆う。
い…今、あれ誰の声だ!!?
ね、猫か?
犬か猫か、ここにいるのか!!?
だけど、その前に、自分がはしたなく口のまわりを涎だらけにしていることに気づく。
「なんじゃ、可愛い声で鳴くのう」
低くドエロボイスで言うな!!!
なんて言う気力なんぞなかったが、言いたくて仕方がない。
「や…止めろ、やぁっ」
なんなんだこれは!!?
最早、こんなあたし知らない。
自分が自分でなくなるようだ。
「止めろって、ン」
なのに京次は手を止めようとはしない。
唇を飽きずにあたしの体に落としていく。
「言ってんだろがぁあ!!!」
「っっ!!?」
嫌になったあたしは、万国共通の男の急所を思い切り蹴り、逃げようと足に力を入れ…。
「……?…っ…?」
あれ、力が入んない。
京次が悶絶している間に逃げようと思ったのに、力が入らずあたしはその場にヘロヘロと座り込んでしまった。
「れ、蓮華…」
かなりご乱心な京次が手を伸ばす。
危険と察知した本能が、逃げるよう立てと命令するが、未だに力が入らない。
そこであたしは、いままで京次が支えてくれていたことに気づく。
「…ヤバイ」
「……いい度胸しとるのう、蓮華…?」
ゆらり、と立ち上がった京次があたしを見る。
――あ、ヤバイ殺される
悟った。
マジで怒ってる。
「次は容赦せんぞ」
「じょ、じょーだんだって☆怒んな怒んな—―きゃあぁぁぁあああぁああああぁああぁぁ!!!」