藍白の鬼
風呂から上がって寝巻きに着替え、ぼんやりしながら自分の部屋に行こうとすると、急に誰かに抱き寄せられた。
「っっ!!?」
恐ろしさのあまり悲鳴も出ず、心臓がドクドクと脈を打つ。
「なんで、そっちになんだよ?」
後ろから聞こえる和の声に少し安心したが、今、自分がどこにいるのかに気づいて背筋が凍る。
「……っ…?」
絶句した。
なんであたし、自分で京次の部屋に行こうとしてんの。
熱でもあるのだろうか。
それとものぼせたのだろうか。
あれほど嫌っていたのに、自分から行くってどういうこと。
もう訳が分からなかった。
「どうか、してるね…あたし……はは」
無理に笑ってみせるが、それは彼の不安を掻きたてるだけだったらしく、和は落ち着くまで背中をゆっくりさすってくれた。
—―が。
「ごめん、もう無理だわ」
「え?」
そんな言葉と共に視界が反転する。
背中に先程までの温もりはなく、床の冷たい感触。
何故か背景に天井、何故か目の前には半裸の和。
「…や」
言葉を発することなく口を塞がれ、着物がはだけていく。
何故かは分からないが、和が自分の体に触れていく場所からカビが生えて汚くなってしまうような感覚に襲われた。
「ぃやだっ…やめ」
必死に抵抗するも上手くいかず、和の体をどけることが出来ない。
「きょう、じ…っ」
自分で言って驚いた。
だけど更に驚いたのは、自分の体があの温もりに包まれていることだった。
「儂の女に手を出すたぁ度胸あるのう」
突然すぎて、理解できない。
さっきまであたしの上に乗っかっていた和は、壁に激突したのだろう。
壁が凹んでいたし、彼は苦しそうに息を吐いていた。
一方、あたしは京次の腕の中にいて、無意識のうちに彼にしがみついていた。
その自分の手はカタカタと小刻みに震えていて、少し滑稽だったと思う。
「漸く儂の名を呼んだか、蓮華」
ぎこちない顔で見上げると、彼は珍しくフッと優しく笑った。