藍白の鬼
「和?お前を襲った子供のことか?」
頷くあたしに彼は、さも興味がないように視線をそらす。
…言いたくないようなこと、なのだろうか。
「そんなこと、気にしてどうする」
声が硬かった。
「どうするって……ただの、興味」
そんなあたしを京次は、一瞥した。
「あやつは葬った」
「え」
葬った?
「蓮華?」
お前のほしかった言葉を与えたが、どうした、顔色が悪いぞ。
京次はそんな表情を浮かべていた。
「………こ、殺すって…」
「儂ら透鬼には女が生まれにくいと話したろう。透鬼である儂の女に手を出したのじゃぞ。死して許されることでない」
絶句した。
何も言えない。
「希望の殺し方があったか」
笑えない冗談を言う京次が嫌になる。
「なんで?なんで和殺すの?」
「………やはり蓮華も人間じゃの」
なんとなく、怒っているような気がした。
風が、ほほを刺す。
「覚悟は決まったのか?こっちで生きるなら、そのひどい平和ボケは腹の足しにもならんぞ」
――違う。
あたしが言いたいのはそんなことじゃない。
「あたしに…」
声が震える。
だってそんなこと一度も言われたことないし、そんなこと示されたことないし。
「あたしに、それほどの価値、ないのに。あるわけないじゃん、そんなの。殺さなくても、よかったの――」
え?
なんで?
言い終わる前に言葉が出ていかなくなった。
それはキョウジがあたしの口を塞いだから。
壁に押さえつけられて動けない。
なんでこんなことすんの?
もう本当。
訳が分からなくて、頭回らなくて、ぼんやりしてきて。
涙が出てくる。
本当、なんで?
「言うな」
彼はあたしと少し離れて、睨む。
「その言葉、二度と口にするな」
京次が、怒っていた。
怒られるのは久しぶりだった。
えっと。
どうすればいいんだっけ、こんな時。
そんな常識も分からない。
「……は…」
なんなんだよ。
バカすぎて泣けてくる。
「蓮華」
京次は急に泣き出したあたしを不思議な顔をせずに、抱き寄せた。
「謝り方を忘れてしまったのか?」
なんかもう、何がなんだか全然分かんないんだよ。
全部分かんないんだよ。
あたしがここにいる理由とか、あたしが一人になった理由とか。
全然分かんないんだよ。
京次があたしにこだわる理由も。
なにもかも。
「蓮華、愛してる」
「…………………は…?」
急に変なことを言い出して、尚且つ、顎を持ったので嫌な予感しかせず、あたしは前と同じように一発食らわせてやった。