カレの事情とカノジョの理想
「嫌に決まってるじゃない! 絶対に、いやっ!」
「何なんで? オトコいないんデショ? それとも――オレにハマるのが怖い?」
蓮沼康人の挑発的な瞳が、私を捉える。
たじろぎそうになりながらも、真っ向から視線を受け止めた。
私が男の子に慣れてないからって馬鹿にして……!
こんなヤツにハマるなんて、絶対にありえないんだから!
「……いいよ。付き合っても。その代わり……私の嫌がることは絶対にしないって約束できるならね」
強引にキスするような男に、そんなこと無理でしょ?
ジロッと上目で睨みつけると、蓮沼康人は余裕の笑みを浮かべて
「いいよ」
と言った。
…………ウソっ!?
絶対断ると思ってたのにどうして?
「んじゃー、ヨロシクね? 美春チャン」
強引に手を差し出した蓮沼康人は、私の手を取るとブンブンと上下に振って満足そうに微笑んだ。
「でもさ、その内、美春チャンから誘ってくると思うケドね? それまでの約束ってコトで」
「何言って……絶っっっ対、ないから!」
ムキになる私を見て、わざとらしいくらい爽やかに笑った蓮沼康人は、席を立つと「またねー」と、ひらひら手を振って店を出て行ってしまった。
もしかして私、まんまと乗せられちゃったのかも――