カレの事情とカノジョの理想
無言の抵抗に気付いた蓮沼くんは、ちゅっ、と音を立てて、私の口の端を舐めあげると、ふたたび口唇を重ねてきた。
嫌なハズ、なのに――
頬が熱くなって、身体が火照っているのが自分でも分かる。
強引なくせに、優しい蓮沼康人のキスに、意識が奪われそうになってる。
初めてのキスをこんな風に奪われて悔しいのに、妙に気分が高揚して……おかしくなってしまいそう。
なんで? こんな感覚、知らない――私じゃ、ない。
「……やっ!」
ようやく開放された口から、声を絞り出した。引っ叩こうと手を振り上げると、その手を掴まれて今度は頬にキスされた。
「っ、……」
「え……なんで泣くワケ? ……泣かないでよ」
「っ、誰のせいだと……っ」
気がついたら涙が溢れていて、頬を伝い落ちていた。
涙にぬれた目で睨んで見せると、蓮沼くんはくすりと笑みを零した。
「オレのせい? だったら責任取らなきゃだよね」
「結構です!」
「美春チャン、ホント可愛いね。もしかしてさ――処女?」
「……!!」
「あ、図星?」
蓮沼くんは触れるか触れないかの微妙な距離で、愉しそうに私を見ている。
完全に面白がってる……!
「離して! 帰る!」
「そんな騒がなくても、ちゃんと送るって」
「結構です……っ!」
思いっ切り蓮沼くんの胸を突き飛ばすと、その場から全速力で走り出した。
最っ低! 最っ悪!
もう絶っ対、会うことないあんなヤツ!
自分の軽はずみな行動を反省しつつ、“蓮沼康人”を記憶から削除した。