【完】素直になれよ。
俺には、あいつしかあり得ない。
あいつより美人でも、優しくても、面白くても......。
俺は...あいつがいい。
「誰にも、久留米は越せない。」
そう告げると、女はまた俺の胸の中に頭を埋めた。
ワイシャツが冷たい。
それを感じたのと同時に、女のすすり泣く声が耳に入った。
「最後...最後に一つだけお願いがあるの。」
「お願い...?」
「抱きしめて...くれない?」
抱きしめるって......俺がこいつを...?
「......それは...」
「お願い......。そうしたらちゃんと、ふっきれる思うの。」
俺はこのとき、女が美術室の扉の向こうを盗み見ていたことに気がつかなかった。
言われるがまま、
女の肩を引きよせて抱きしめる。
その姿をまさか久留米が見ていたなんて、思いもせずに。