蜜柑の翼
ヒッチハイクでこの町まで辿り着いてきたのだろうか?

「でも私、あんな奴知らないわよ?」

 缶コーヒーのそれよりも少し濃いコーヒーを我慢して一口飲み郁は投げやりにそう言った。

 関わりたくないという気持ちも手伝ったのかもしれない。

「え?そうなの??」

「確かに郁ちゃんが屋上で叫んだ時も反応しなかったしな」

 陽一はどこかで予想がついていたのだろうミカのように驚いた様子はなくカウンターの中を拭き続ける。

「確かに部屋の中に居ても郁ちゃんの声、聞こえたしね」

 そんな彼らの視線に気づいたのだろう。

 彼らに背を向けて作業をしていた少年がクルリと店内の三人に向き直った。

 ガラス越しに向けられる少年の視線に郁はハッと息をのむ。

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