蜜柑の翼
 少年が見たことがなかったからではない。

 こちらが照れてしまうほどリンとした美しさを持つ少年だったからでもない。

 郁は少年の視線にデジャブ……既視感……を感じていた。
 
「聞こえたかしら?」

「なわけないだろ。ボードの掃除終わったんだろ」

 そんな郁に気づいていないのかミカはホッと熱のこもったため息をつく。

「あんなにかわいい子……郁ちゃんの友達じゃなかったら食べちゃいたいわ」

「え?!」

 冗談とも本気ともとりかねないミカのうっとりした口ぶりにミカは思わずガタリとカウンターの椅子からずり落ちる。

「あんな子供に手を出したら犯罪だろ。何歳違うと思っているんだよ」

「あら!私、まだ19歳なんですけど?」

「出た!ミカさんの永遠19歳説!来月で30歳でしょ?
 11歳もサバを読むのはどうかと思うよ?」

 はやし立てるように言う郁をミカはぎろりと睨みつけた。

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