蜜柑の翼
「あんたは耳抜きができないからね」

　だが褒められるのは悪い気がしない。

　初めて会話らしい会話を雅史に向けた。

「そ！なんで耳抜きできないんだろうな？

　今度、耳鼻科で相談してみようかと思っているんだけど」

　ダイバーとして海に潜る前に必ずできなければいけない耳抜き。

　これが出来ていないといくらダイビングの料金を払ってもダイビングはさせてもらえない。

そのため船で水深の深い場所に行く前に浅瀬で耳抜きの練習をする。

　そんな耳抜きをダイビングショップのスタッフができないのは学校の教師が字を読めないようなもので雅史の時給の安さもそこに由来している。

「ていうか、耳抜きできないならダイビングしなければいいじゃん」

「な！！それじゃあ、圭一さんみたいになれないじゃん」

　そこね……と郁は小さくため息を漏らす。

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