恋
私の意識が目の前の浩介くんの指に移ったその瞬間、背中に指の圧力を感じ、一気に背中側へ意識が引き戻される。
夏木くんの指が、私の背中を動く。
爆発しそうなほどドキドキして、浩介くんの説明が頭に入らない。
呼吸が荒くなりそうで、平静を装うことに必死になった。
そのまま、夏木くんの指はゆっくりと文字を描く。
まっすぐ進んだかと思えば、次はくねくね進んで大きくカーブする。
これは、『わ』かな。
そんなに大きく書かれているわけでもないけど、一画目のときは力が入ったりと強弱がついているから読み取りやすい。
続く言葉は『す』、次は『れ』
なんだかわくわくしてきてしまう。
目の前で浩介くんが話しているのに、夏木くんの指の動きしか頭に入ってこない。
だけど、最後の一文字を理解した時に、冷水をかぶせられたような気持ちになった。
最後の文字は、『て』
続けると、『忘れて』だ。
何を忘れて欲しいの。
私と夏木くんの間で、浩介くんに知られてまずいことはあの日のことしかない。
あれを忘れて欲しいの?
無かったことにしたいの?
夏木くんはそうなの?