恋
「そういえばさぁ。夏木が市民マラソンにでるんだって」
「え?」
予想外な一言に目が点になる。
何でいきなりマラソンなんかに。
「夏木くんって走る人なの?」
「ああ。高校の途中までは陸上部だけどさ。途中で怪我して辞めたんだ。もう全速力では走れないはずなんだけどな」
「怪我……」
何故か図書館で見たときの夏木くんが蘇る。
近づくなよ、と言った彼。
どこか投げやりな瞳。
あれは、諦める事に慣れた人間の持つ空気?
「あの時あいつ結構荒れてさ。大変だった」
へへ、と笑う浩介くんの表情には優しさが滲んでいて、おそらく彼が夏木くんを励ましてたんだろうと思わせた。
私の知らない、浩介くんと夏木くんのカンケイ。
“親友”なんて言葉を敢えて使うくらいだから、きっと深い絆があるのだろう。
それを、間で壊そうとしているのは私?